本/知覚力を磨く

『知覚力を磨く』 神田 房枝 2020

一言メモ:思考は行動に先行し、知覚は思考に先行すると神田は整理しています。知覚とは、脳がほぼ反射的に実行する認識(情報処理)のプロセスを指します。(ニューロサイエンスの科学者ボー・ロットの考え方を下敷きにした解釈です。)それゆえに知覚はその人の人生を大きく左右します。だから「知覚力を磨こう」というのが神田の提案です。

知覚力を磨く上で最大の障害になるのが先入観です。それをどのように取り除き、自分の目の前の世界をより素(そのまま)に近い状態で見られるようになるかについて具体的なメソッド(手順に従ったやり方)を紹介しています。(先入観を減らすために、瞑想のように、煩悩を滅却するという抽象的なものではなく、具体的に物体を用いていて、方法を理解しやすいのが特徴です。)

具体的には、神田が仕事として関わってきた美術鑑定や美術館での教育サービスの経験をもとに、絵画鑑賞を使った方法です。

メソッドの基盤を開発した人物は、イエール大学の医学部教授アーウィン・ブレイバーマン。医学生のCTスキャン画像の判読技術が低下していることに気づいてその対策として、絵画作品を使った観察力トレーニングの授業を考えました。数年間実施して効果を評価したときに統計的に有意な違い(効果)が確認されました。これを神田方式にまとめた方法を紹介しています。

神田は、この方法のビジネスシーンでの効能についてもページを割いています。この点について、どうしてそれが可能なのかは、ジャン・ピアジェの「シェム」と「シェマ」の違いを参照すると、理解の助けになると思います。

追加の一言:哲学対話としては、自分の考えの整理や、対話のテーマについて内容が十分に話の俎上(テーブル)に上がったかを確認するのに役立ちます。また、1つのテーマに対して、見えていなかった側面への気づきを促す効果も期待できます。